
都会に疲れた女性と孤独を抱えた青年が織りなす一晩だけのファンタジー作品『飛べない天使』。主演は「中西優佳」役の福地桃子と「辻聡太郎」役の青木柚。実力派の俳優二人による初共演は、監督であり原案作成の堀井綾香氏から熱烈なオファーによるもの。冬の伊東の街を舞台に撮影した作品は、観た人の疲れや力みを優しくそっと和らげてくれる作品です。作品公開にあたり、本作への思いやエピソードのほか、近況もお話させていただきました。
福地さんは監督から直接手紙をもらって出演のオファーを受けられたそうですね。
福地:いただいたお手紙には、とても熱量の込められたメッセージと、堀井さんがミニシアターで働かれていた当時、体験してきた出来事やそこでの輝きが、役や作品に投影されるといったことが書かれていました。まだお会いしたことのなかった時期だったのですが、作品を通して堀井さんのことをもっと知りたいという気持ちになりました。
実際にお会いになった堀井さんの印象はいかがでしたか。
福地:会うたびにエネルギーを届けてくれる方だと思っています。作りたいものを見つけたら、その気持ちに対して突き進んでいく、人としての強さは、初めてお会いした時も今も変わらず感じています。
青木さんは堀井監督と以前から面識があったようですね。
青木:はい。その時は別作品で堀井監督がメイキングを担当されていて。その際に監督から「いつか作品を撮るので、ぜひ一緒にやりましょう!」と声をかけていただいていました。なので、実際に出演のオファーをいただいた時には、とても嬉しかったです。


お二人は今作がはじめての共演だそうですね。
青木:はい、2年前のこの撮影がはじめての共演でした。その後、他の作品ではまだ共演できていないので、いつかまたご一緒できたら良いなと思っています。
大きな制作チームでないからこその空気感もコンパクトなチームにはあると思います。このチームならでは印象で何か感じることはありますか。
福地:朝、撮影が始まる前に、皆さんと会ってひとりひとりと挨拶を交わせた時間は、この作品にとってすごく良い時間だったなと感じました。伊東(静岡県伊東市)の街を舞台に撮影したのですが、画面に映っている登場人物は多くないけれど、人のぬくもりに触れるシーンがたくさんあって、そこにあった匂いや空気もそのまま映っているような気がしました。
青木:僕は初めて伊東の街を訪れたのですが、また行きたい場所として、ことあるごとに「伊東」と名前を挙げるくらい好きな場所になりました。個人的に「映画を作っているな」とダイレクトに感じるのは、少数で作っている時だったりもして。みんなで1つの方向に向かっている空気感を肌で感じやすいところが、少ない人数で作品づくりをする良いところだと思っています。伊東のロケーションも、チームの体制も、この作品にすごく馴染んでいて、演じる際にたくさん助けられました。
それぞれの役について、一番意識されて演じていたことを教えてください。
福地:別々の場所で生活している二人の声が重なりあって始まる物語でもあるので、映画に触れた誰かの心や声とも重なる、なんてことがあったら、とても素敵なことだなと想像しました。役が持っている設定と自分のバランスを上手に出せるように、ということを大切にしてくださっていたので、堀井さんとお話をさせていただくなかで出来上がっていった感覚がありました。
“孤独”を感じさせるシーンはいつくかありましたね。
福地:セリフでは直接的な言葉というのはないのですが、ふと一人になった時に、孤独を憶えるシーンがいくつかあります。私の中ですごく残っているのは、洗濯機が回り続ける様を「優佳」が一人で見つめているシーンです。「聡太郎」と出会ったばかりの「優佳」がふと一人でこれまでの暮らしを思い返す場面です。じっと見つめているだけで、何か言葉を発する訳ではないのですが、自分の心の中にある叫びを見つめる時間のように思えました。
ご自身で手応えがあったと感じたのはどういった場面でしょうか。
青木:基本手応えはないのですが…。今回「聡太郎」について、あまり細かい指定はなくて、僕自身の中にあるポップな部分を引き出して欲しい、と監督が委ねてくださることが多かった気がします。監督のこだわりを受け取りながらも、いつでも話し合いができるような現場だったので、とても風通しの良さを感じられた撮影でした。今思うと、自分に残っているエネルギーを絞り出して聡太郎を演じていた気がします。
プレッシャーなど余計なものを感じることのない、任された空気感だったんですね。
青木:演じる上ではもちろん感じますが、全体を通してすごくいい空気感で撮影が進んでいきましたね。ただ、完成した作品を見てあまりに自由にやっている所は、自分の癖などが映っていて少し恥ずかしかったですね(笑)
福地:撮影してから2年ほど時間が経っているので、流れていった時間での変化に気がつくことが多いと思います。それが映画として残っていることが本当にすごいことだなと改めて感じました。
青木:自分の表現に関しては、いつも全てが拙いと感じてしまいがちですが、それはやっぱり自分自身から生まれたものであって。その時々の自分が映像に残り続けるのって、面白いですよね。
ちなみに出演された映画が実際に映画館で観る機会はありますか。
福地:あります。同じ映像でも劇場の空気によって、受け取る印象が変わることってあると思います。誰かの笑い声につられたり、それを感じたりできるのは贅沢な体験だなと思います。
青木:僕も行ける時は劇場で観るようにしています。


プライベートについても質問させてください。最近の私的ニュース、何か報告したいことありますか。
福地:最近、ずっとやろうと思っていた靴の修理をできたことです。靴を買うと、新品の状態のまま、靴屋さんに持って行って、靴底に保護のソールを一枚貼るようにしているのですが、今回は中古で買った靴だったので、中の布がぽろぽろしていて、そのまま履くと傷んでしまう状態のものでした。一度、靴を持っていったら、ウチでは修理できないと言われていたこともあって、どこかに修理をお願いできるお店はないかなあと探していたんです。そんな時、たまたま持ち込んだお直し屋さんがとても真摯に、愛情を持って直してくれたんです。すごく綺麗に仕上がった靴を見て、「すごくピカピカですね」と言ったら、店主の方が良い笑顔をしてくれたので、とても嬉しくなりました(笑)
青木:僕は「BE:FIRST」や「BMSG」のアーティストの存在で、日々を楽しく過ごせています。同世代の方たちが信念を貫きながらも柔軟に、自分のまま夢を叶えていくのがかっこよくて。意思を持ったアーティストが、ルーツを大事に抱えながらメジャーで活躍している姿には刺激をもらいますね。自分が演じる時や、活動をする上で大事にしたい気持ちがリリックに詰まっていることも多くて、助けられています。
最後に、映画を見てくれる方々にメッセージをお願いします。
青木:何かに疲れた人たちが、あるきっかけで出会って、同じ時間を共にする物語です。それぞれの人が日々過ごしている中で、何かを発散したり、重ね合わせたりする選択肢として、映画館へ足を運んでもらえたら嬉しいです。
福地:限られた時間の中で、二人が出会ったことで変化していく。二人の声の重なりが観てくださった方の心の救いになったら、という願いを込めつつ、どんなふうに受け取ってもらえるのかを楽しみにしています。


【映画情報】
映画『飛べない天使』 公開中
ある真夜中、偶然再会した優佳と聡太郎。
孤独な二人の不思議な逃避行が始まる── 。
優佳は会社の飲み会からの帰り道、枕を抱えて商店街を駆け抜ける青年を目撃する。
彼のまわりには白い羽根が舞い、まるで天使のように去っていった。
その後、再びその青年に遭遇する。
聡太郎と名乗る彼はどうやら病院を抜け出してきたらしい。
行きたいところがある、と無邪気に優佳を連れ出す…。
<出演>
福地桃子 青木柚
前原瑞樹 さいとうなり
監督・原案・編集:堀井綾香
脚本:常間地裕 主題歌:DYGL「Shadow」 撮影:古屋幸一 照明:加藤大輝 録音:Keefar
美術:後藤駿治 スタイリスト:中村もやし ヘアメイク:くつみ綾音 助監督:内田知樹
ラインプロデューサー:田中佐知彦 スチール:染谷かおり 宣伝美術:神谷利男デザイン
宣伝:木村真奈美 宣伝協力:本間隆平・米澤あずさ
協力:静岡県伊東市・静岡県東伊豆町
制作協力:Ippo 配給協力:SPOTTED PRODUCTIONS
企画プロデュース・製作・配給:Nuiavan
2023/47分/カラー
公式サイト https://www.nuiavan.com/tobenaitenshi
【プロフィール】
福地 桃子 Fukuchi Momoko

1997年10月26日生まれ。東京都出身。2019年、NHK連続テレビ小説「なつぞら」に夕見子役で出演して話題に。近年の主な出演作にドラマ「鎌倉殿の13人」「消しゴムをくれた女子を好きになった。」(2022)「舞妓さんちのまかないさん」「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」(2023)、映画「あの日のオルガン」(2019/平松恵美子監督)「サバカンSABAKAN」(2022/金沢知樹監督)「あの娘は知らない」(2022/井樫彩監督)「飛べない天使」(2025/堀井綾香監督)など。2024年には舞台「千と千尋の神隠し」に主人公・千尋役で出演。2024年に主人公・千尋役を務めた舞台「千と千尋の神隠し」は、2025年上海公演が決定している。
Instagram @ lespros_momo
X @ momoko_fukuchi
青木 柚 Aoki Yuzu

2001年2月4日生まれ。神奈川県出身。2016年に『14の夜』で映画デビュー。2021年公開の『うみべの女の子』でW主演を務め、毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞にノミネート。同年米映『MINAMATA」でジョニー・デップと共演。『カムカムエヴリバディ』(NHK)、『モアザンワーズ/More Than Words』(Amazon Original)、『最高の教師』(NTV)でもその確かな演技が話題に。主な出演作に、映画『はだかのゆめ』『神回』『まなみ 100%』『EVOL』『不死身ラヴァーズ』など。今後も話題作への出演が控えている。
Instagram @ yuzu_aoki_