
映画『市子』で話題を攫った戸田彬弘監督の最新作『爽子の衝動』が10/10(金)に全国公開に。今回は、本作の主人公「爽子」を演じ、戸田監督もその実力に一目を置く俳優・古澤メイさんへのインタビューです。ヤングケアラーである難役「爽子」の葛藤や不安定さを、その高い表現力で見事に演じ切った彼女。本作への取り組みや「爽子」への思い、重ねて来た気持ちを丁寧に語ってもらいました。魅力と存在感に溢れた彼女の今とこれからにますます注目です!
公開直前となった現在の心境を聞かせてください。
みなさんにどう受け取っていただけるか不安もあるのですが、たくさんの方に届いてほしい思いでいます。どういった反応をいただけるのかドキドキしています。
内容的にも難しい作品かと思いますが、撮影前に意識されたことはありますか。
撮影期間は短かったのですが、その分、撮影前に準備する時間をいただくことができました。専門的なことに関しては、医療監修の方が付いてくださったので、関係した知識については十分にいただくことができました。
作品に関しては、作品自体のチカラが大きいこともあり、「爽子」に降りかかるさまざまな出来事や置かれた状況に振り回されてはいけないとの思いがまずはありました。どれだけ「爽子」と向き合いつつも、彼女を決めつけすぎないでいられるかについて、すごく意識していました。外から見える「爽子」の人物像を私が決めてしまうと、自由に生きていられなくなってしまう。「爽子」がどういう人であるかは、見ている方が決めるもので、私がこういう人物なんですと決めつけたくはなかったです。なるべくひとりの女の子として……、どういうものに興味があるのか、何が楽しみなのか、降りかかる現実だけではなくて、「爽子」の夢とか欲求みたいなものに目を向けてつくるようにしていました。
初めての主演作ですが、何かしらの思いはあったのでしょうか。
撮影をしている時は「爽子」に必死で向き合っていたので、自分が作品の軸にいることを、あまり大きくは捉えていませんでした。でも今思えば、それは私が集中できる環境をまわりの方が作ってくださっていたんだと思います。主演だからといって必要以上なプレッシャーは背負わず、気負わずにできたと思います。
ただ、撮影から時間が経って作品と自分とに距離ができた今、改めて見直すと、凄い作品に関わらせてもらっていたな、と感心しています(笑)


大変な撮影を経て、初めて完成作品を見た時、どういった気持ちがこみあげたのでしょうか。
できあがった出演作品を見るのがあまり得意ではなかったのですが、「爽子」として存在していたことにホッとしました。一つの物語として見られたことは、初めての経験でとても嬉しかったです。
所属するチーズfilmの代表でもある戸田監督について、どのような印象でしょうか。
穏やかな方です(笑)。初めてお会いした時の第一印象から今も変わっていなくて、すごく柔らかな方です。”ほんわり”されています。
普段の戸田さんと戸田監督になった時の変化はありますか。
差はない印象です。監督は役者との距離がすごく近い監督というか、役者のことをとてもよく見られていて、考えてくださる監督だと今回の作品で改めて知ることができました。
特にそれを実感したのはどういった時でしょうか。
役に迷っている時や何かに行き詰まっているシーンがあると、監督は考える機会を作ってくださいます。こうしてほしいだとか、そうではないとは言わず、『この時「爽子」はどう思っているんだろうね』だとか、役者にまず考えるチャンスをくれ、またそれを体現させてもらえるところです。“信頼されている”ことを役者に感じさせてくれるので、私もそれに応えようとして頑張ることができました。
監督が役者に寄り添うことを肌で感じられたんですね。
泊まりがけでの撮影だったのですが、監督から夜に「初日どうだった?」と言葉をかけてくださった時に、これまでの不安や思い悩んできたことが溢れてきてしまったことがあったんです。その時に監督から「不安のままで居て良いんじゃないかな。不安で居ることが悪いわけではないし、そのままで良いと思うよ」と声をかけてくださったことで救われました。確かに誰かを演じることに対して、分かり切っている状態の方が怖いなと。そんなに人は簡単なものではないし、演じる時点で他人なんだから、そういった不安は必要な事だなと。お言葉をいただけたことで、自分の役との向き合い方に自信がつき、次の日からの撮影へのエネルギーになりました。
ご自身で思う一番手応えのあったシーンはどこでしょうか。
ケースワーカーの方が家に来るシーンです。精神的にも肉体的にも大変なシーンは初めての経験でした。ひとつ乗り越えたことを実感できたシーンだったと思います。


今作を経て役者として糧や財産となったと感じていることはなんでしょうか。
「爽子」という女の子に出会えたことは、大きな財産だと思います。「爽子」と一緒に居た時間は撮影期間以上に長かったので。
今後はどういった作品へ挑戦したいと思っていますか。
昔からの夢でもあるのですが、朝ドラに出てみたいです。朝ドラが好きでよく見ているのですが、時代を開拓していく女性たちとその強さのようなものに、憧れがあります。また、「爽子」役を演じて改めて感じたのですが、普段、生活しているとなかなか直面しない今回のような作品に関われたら嬉しいです。私も学生の頃に映画やドラマに助けられて来たので、今度は私が見ている人にエネルギーを渡せるような作品に出ていきたいです。



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古澤さんご自身についても質問させてください。
役者を志したきっかけを教えてください。
現在は治っているのですが、高校生の時にしばらくの間、自宅で療養する病気にかかってしまったんです。それからは人や社会のことが信用できなくなり、殻に閉じ篭もってしまって……。その時、映画に救われたのがきっかけです。病気にかかり、同じことで苦しんでいる方がいるのを知ったので、治った自分は、その経験を使って、自分が今度は届ける側になりたいと思ったのがきっかけです。
影響を受けた具体的な作品があるのでしょうか。
この作品がといったものは無いんです。当時は「現実」と「映画」に二分されていて、「映画」を見ることで栄養を摂っていたイメージでした。だからどの作品が好きとか、どの監督が好きとかではなく、日常の彩りがそこしかなかったので、そこへ浸りに行く感覚で映画を見ていました。

”古澤さんらしい休日”の過ごし方を教えてください。
休日のルートがあるんです。
どういったルートでしょうか。
川に行って図書館へ行って、映画を見ます(笑)
午前中からですか。
いえ、午前中は寝ています(笑)
(笑)、川や図書館で何かされているのですか。
川ではコーヒーを飲みながら、ぼーっとしています(笑)。何も考えない時間をつくっています。図書館では本を借りるよりも、そこで本を読んでいることが多いですね。映画は映画館でも自宅でもどちらの場合もありますが、映画館で見る方が好きです。よく名画座みたいに昔の作品を上映している場所へ出かけています。
最近、ハマっていることを教えてください。
筋トレです。マッチョな人たちに囲まれています(笑)。私は映画を見たり、本を読んだり、あと絵を描くことも好きで。でも家にばかりいるのもいけないなと思いますし、運動も好きなのでジムに行くようになりました。体を動かしていると気分転換にもなって楽しいです。
先ほど、絵も描かれる話をされていましたが、劇中に映っていた絵は古澤さんが描かれたのでしょうか。
実は自宅の壁に貼られた何枚かの絵のうち1枚だけ私の描いたものなんです(笑)。「爽子」と同じ19歳の時に描いた絵を紛れ込ませてもらいました。
すごい。そういったことって嬉しいですよね。
では最後に作品を見てくれる方々へメッセージをお願いします。
日本が抱えている生活保護やヤングケアラーの問題を扱う作品になっていて、私自身も作品を通して新しい気づきや学びがありました。
今ある問題に関心を向けること、知ってもらうきっかけになることがあれば良いなと思っています。若者に焦点をあてた作品でもあるので、ぜひ若い世代の方に見てもらって関心を持ってもらいたいです。人に優しさを向ける機会や、いつもより少しだけ視野を広げる機会になれば嬉しいです。

【古澤メイ:プロフィール】

古澤メイ(ふるさわ・めい)。2000年5月2日生まれ。東京都出身。154cm。特技:バトントワリング、アクロバット、絵画、ダンス(ヒップホップ5年、ジャズ、クラシックバレエ)。趣味:読書、カレー作り、味噌作り。チーズfilm所属。
映画・演劇を中心に多岐に渡る作品に出演。テレビドラマ『UNREAL』、『愛の、がっこう。』、『風のふく島』、『不適切にもほどがある!』、『海のはじまり』、『ノロイヲアゲル』など。舞台では『さえなければ』(ヒラタオフィス+TAAC)、『狂人なおもて往生をとぐ』(TAAC)など。本作が映画初主演となる。
公式Instagram:@mei.furusawa
公式X:@furusawa_mei
公式サイト:https://www.cheese-film.co.jp/mei-furusawa
【映画情報】
2025年10⽉10⽇(⾦)新宿シネマカリテにて順次公開
映画「爽子の衝動」
第20回ロサンゼルス日本映画祭 Short-Plus films部門 最優秀作品賞。
第20回大阪アジアン映画祭 インディ・フォーラム部門 正式出品
第14回マドリード国際映画祭 コンペティション部門 正式出品
第17回福岡インディペンデント映画祭 正式出品

四肢麻痺と失明を抱える父・保(間瀬英正)と暮らす19歳の爽子(古澤メイ)は、絵を学びたい夢を心に秘めたまま、介護と生活費のために日々を費やしている。生活保護の申請も水際作戦で通らず、社会から孤立していく中、唯一頼りにしていた訪問介護士が交代し、不安を募らせる。ある日、ケースワーカーの訪問をきっかけに、爽子の生活はさらに不安定になり、心のバランスを崩していく。そんな中、新しい介護士・さと(小川黎)が現れる。抑えきれない衝動が、爽子を取り返しのつかない行動へと駆り立てていく──。
<出演>
古澤メイ
間瀬英正 小川黎
菊池豪 遠藤隆太 木寺響 木村恒介 中川朱巳 / 黒沢あすか 梅田誠弘
<スタッフ>
監督・脚本・編集:戸田彬弘
プロデューサー:King-Guu、亀山暢央、戸田彬弘
アソシエイトプロデューサー:西原龍熙|ラインプロデューサー:深澤知
撮影:春木康輔|照明:藤井隆二|録音:北野愛有|美術:坂入智広|ヘアメイク:七絵|助監督:片山名緒子
MA・音響効果:吉方淳二|VFX:三輪航大|スチール:柴崎まどか|宣伝美術:大久保篤
挿入歌:「ダーリン」Norenn
インティマシーコーディネーター:西山ももこ |医療監修:堀エリカ|絵画指導:間瀬英正
製作:basil、チーズfilm
制作協力:ポーラスター|特別協賛:レジェンドプロモーション|制作プロダクション:チーズfilm
45分 アメリカンビスタ5.1ch
©「爽子の衝動」製作委員会2025年
公式HP:https://www.soyoko-movie.com
公式X:@soyoko_movie