コロナ禍で人々の心揺れる姿を描いた映画『散歩時間〜その日を待ちながら〜』でヒロイン「恵紙ゆかり」役を演じた女優・大友花恋。いつもナチュラルな笑顔とポジティブさで幅広い世代にファンを持つ彼女が、本作ではコロナ禍で婚約をした女性の秘めた感情をリアルに表現。観た人たちに共感と前向きに生きる優しさを示してくれています。 “私自身に似ている女性”と話す「ゆかり」役を演じる難しさを乗り越えた迫真の演技は、存在感ある女優としての階段を着実に上っていることを証明してくれています。そんな彼女に、映画のエピソードはもちろん、読書家として、今おすすめする小説についても話を伺いました。

Photo:望月宏樹
Text:kukka編集部

婚約中の女性「ゆかり」役を演じられるにあたり、監督からの要望やアドバイスはありましたか。

衣装合わせや台本読みの時から、監督に「ゆかり」役を演じる前段階として、今回の作品がどのような思いで生まれたのか、話を伺いました。コロナ禍で、みんながじっと耐えていた中で、マイナスなことだけではなく、立ち止まりきちんと自分自身を見つめ直した時間があるからこそ、今の自分たちがあるんだという前向きなメッセージを与えられる作品にしたいとおっしゃっていました。それぞれの人物が悩みやもどかしさを感じながらも、落ち込んだ気持ちにならない作品です。「ゆかり」を演じる際も、結婚を前に悩み、不安を抱えている表情や態度を見せるのですが、みんなと一緒にいるシーンではできるだけ落ち込まないように、軽やかに会話に参加できるように心掛けました。

そんな中でも、苛立ちの感情を表に晒した大友さん演じる「ゆかり」が新鮮に映りました。

私自身も新鮮でした。どこまで「ゆかり」が思っていることを態度も表していくべきなのか、難しい部分もありました。心で思うことがあっても、自分の中に押し殺してしまうところが「ゆかり」にはあるので、どうしていくべきかについて監督とも話をさせていただきました。

「ゆかり」が感情を露わにするシーンは、今まで耐えて我慢してきた様子が分かって観ている側にもしっかり伝わりました。

ありがとうございます。私自身、結婚とこんなにも向き合う役が初めてのことでしたし、まだ周りでも結婚をしている人が少ないので、結婚に対する悩みや不安は、実体験をもって感じることは難しかったので悩みました。ただ、同級生がちょうど就職活動という人生の選択をする時期でもあったため、人生の選択という部分では結婚とも通じるものがあることを感じながら演じました。

婚約者である「亮介」役の前原さんとは以前も共演されていますね。

前原さんと作品でご一緒するのは3回目で、とても安心感がありました。1~2年くらいの間隔でご一緒するので、会うたびにホッとするような気持ちになり安心します。前原さんはムードメーカーで、現場の雰囲気を作ってくださっていました。二人で話しながら「亮介」と「ゆかり」を作り上げられたのは、女優のお仕事を続けていく上で得られるものが大きかったです。

旧知の前原さんと婚約者役での共演は、少し恥ずかしさも感じるところもあったりするのでしょうか。

恥ずかしい気持ちよりも、やはり心強い気持ちですね。初めての読み合わせ稽古の時に、「(3回目の共演で)ついに結婚するんだね」と笑顔で話しかけてくださいました。

撮影現場でのエピソードを教えてください。

「亮介」と「ゆかり」の結婚をお祝いするパーティーのシーンでは、食卓に美味しそうなご飯がずらりと並んでいるんです。みんなで食べながらお芝居をするのですが、どれも美味しかったので、撮影が終わった後もみんなそのまま食べ進めていました。唐揚げや手巻き寿司は人気ですぐに無くなってしまいました(笑)

ケーキもたくさん映っていましたね。

3種類のケーキがあったのですが、撮影後にみんなでいただきました。

「ゆかり」役のここに注目して欲しいシーンはありますか。

「ゆかり」と「亮介」がふたりで本音をぶつけ合う最後のシーンは、印象に残っています。お互いが思っていたけれど、心の中で留めていたちょっとしたことを少しずつ言葉にして相手に届けていく大切なシーンです。撮影が始まる前に、前原さんと監督と3人で時間をかけて話した場面でもあります。1つのシーンについて1時間近くも話し合ったのは初めての経験でした。じっくり話をすることができたおかげで、撮影が始まってからはあっという間でした。どう見せていこうか、そこまでどのようにもって行こうかとか、私たちのイメージを監督がすべて受け止めてくださいました。私たちが話し合っている間、スタッフの方々も「たっぷり時間をかけていいですよ」と言って待ってくださったんです。そんなみなさんと一緒に作品を作れていることが幸せですし、ありがたいことだなと思いました。

コロナ禍は大友さんにとっても、立ち止まったことで、新しい気づきなどはあったのでしょうか。

自分を見つめ直すための時間になりました。何か新しいことを始めようとしても、思うように始められない時期だったと思いますが、そんな中でも今の私に何ができるのか、これからの私に何ができるのかをじっくり考えさせてくれる時間でした。まだ完全にコロナが終息しているわけではありませんが、人生において大きな意味がある時間だったと思います。

コロナ禍の学生生活や就職活動について、同世代の方も多いので、大友さんにも色々な話が伝わってきたのではないでしょうか。

群像劇なので、コロナに対して色々な悩みを抱えている、様々な立場の人が登場します。どこか自分に近い環境で同じような悩みを抱えている人がいるんだと思ってもらえると、観終わった後に心が温かくなるのを感じられるのではないかなと思います。

「結婚」がひとつのキーワードにもなっている作品ですが、大友さんご自身は「結婚」について何か考えるところはありましたか。

改めて「結婚」することは簡単なことではないんだな、と感じました。「亮介」と「ゆかり」は、付き合っている間はお互いに不安に思うことも少なかったのかもしれません。「結婚」というカタチが固まることで、不安を感じてぶつかってしまう。やはり、誰かと生きていくと決意することは簡単なことではないんだなと思うと同時に、その壁を乗り越えてまで「結婚」しようと思えるような人に出会えたら良いな……と憧れる気持ちもあります。

今回初めて、結婚を控えた女性役を演じられましたね。今度、挑戦してみたい役があれば教えてください。

今回演じた「ゆかり」は話す時の雰囲気や性格が、かなり自分に近い人物でした。自分に近い役を演じることはよりリアルに表現できる反面、難しいことでもあるなと実感しました。自分に近くなればなるほど、役ではなくただの自分になってしまうこともあるんです。だからこそ、自分の性格に近いさまざまな役柄を挑戦してみたい気持ちになりました。

「ゆかり」は大友さんに近いところも多い女性だったんですね。

心の中ではいろいろ思うところがあっても、あまり表に出さない。私も対ヒトとなった時に受け身になってしまうことが多くあって、そういう部分は近いなと思いました。

いつか感情が爆発しない程度に溜めすぎず、調節してくださいね(笑)

(笑)。そうですね、自分の気持ちを理解し、伝えられる人になりたいです。

大友さんの性格の良さは画面からもいつも伝わってきているので、たまには感じたままの少し悪いと思われるような感情を出しても、みんな嫌ではないと思いますよ(笑)

はい、ワル花恋も探してみようと思います(笑)

ありがとうございます(笑)。映画以外の近況についても聞かせてください。読書好きの大友さんですが、23歳の現在、ぜひ読んで欲しい小説を教えてください。

最近読んだ本の中で一番心に響いた作品は、島本理生さんの『憐憫』です。島本理生さんは女性の恋愛作品を描く名手なんです。その島本さんが描く、芸能界を舞台にした自分にも理解できる部分もあり、余計に胸に刺さるものがありました。この物語では、主人公の女優が今のままの人生で良いのだろうかと悩んでいる時に、偶然出会った男性と不倫関係になってしまうんです。ここだけ聞くととんでもないお話なのですが、ぜひみなさんにも読んで頂きたいです。あとは江國香織さんの作品です。どの作品も好きですが、中でもおすすめは『つめたいよるに』です。この本は短編集で、読んでいるだけでときめいてしまうような、あり得ないけれど、どこかふと納得させられてしまうような、ファンタジーだけど現実にもあるお話がいくつか入っていて、私にとって特別な一冊となりました。最後の一冊は、浅倉秋成さんの『六人の嘘つきな大学生』です。この本は最近読んだミステリーの中ではピカイチの作品で、会う人会う人にすすめています。大どんでん返しだと思ってから、あと2回はどんでん返しがある、何度も騙されて、何度も感情が揺れ動かされてしまう本当に面白い作品です。こちらもぜひ読んでほしい一冊ですね。

ありがとうございます。もう一つ、最近の大友花恋さんは、何を推していますか。

「推しは?」と聞かれてすぐに思いつくのは、ディズニーです。パークには頻繁に行けないのですが、自宅でディズニーの映画を観ている時間が幸せで、気がつくとあっという間に時間が過ぎてしまいます。

それでは最後に、映画について観てくれる方にメッセージをお願いします。

コロナ禍を描いている作品なので、観る前に少し考えてしまう方もいるかも知れませんが、みなさんの心をふわっと温かくさせるような、コロナ禍をポジティブに考えられるような作品です。しし座流星群がテーマにもなっていて、観終わった後に自然と夜空を見上げたくなるような映画です。たくさんの方に届くと嬉しいです。


【情報】

2022年12月9日(金)

新宿シネマカリテほか全国順次公開

映画『散歩時間 〜その日を待ちながら〜』

舞台は 2020 年 11 月 17 日。婚約をしたものの、コロナの影響で結婚式をすることができなかった 20 代の亮介(前原滉)とゆかり(大友花恋)。引っ越しの整理もままならない二人だが、都会から離れた町に住む真紀子(柳ゆり菜)の自宅で友人たちがお祝いパーティーを開いてくれることになり、秀和(中島歩)や圭吾(篠田諒)、そして真紀子の知り合いの Youtuber ちひろ(めがね)らが集まる。しかし、自分の意見に合わせるばかりで、本音を話さない夫に不安を募らせていたゆかりは、彼の隠し事を知ってしまい、祝いの席に不穏な空気が漂ってしまう。同じ空の下、様々な人物がやり切れない想いを抱えて毎日を過ごしている。急増するデリバリー案件に答えながら出演舞台が中止になる日々を送る30 代の若手俳優の片岡(アベラヒデノブ)、帰省できず里帰り出産のわが子を抱くこともできない 40 代のタクシードライバーの淡路(高橋努)、そして、学校イベントのほとんどが中止となり、長年の恋心さえも伝えられずにいる中学 3 年生の光輝(山時聡真)と鈴(佐々木悠華)。この日は、しし座流星群がピークを迎える日──恋人や親友、我が子との間でさえも曖昧になっていく他者との繋がりに、それぞれが葛藤を抱えながらも、たしかな一歩を踏み出そうとする彼らの空に、流れ星が降り注ぐ。

<出演>
前原滉 大友花恋
柳ゆり菜 中島歩 篠田諒 めがね 山時聡真 佐々木悠華 アベラヒデノブ 高橋努

<スタッフ>
監督:戸田彬弘
脚本:ガクカワサキ

公式Twitter      https://twitter.com/sanpojikanMovie

公式サイト   https://sanpojikan.com/


【プロフィール】

大友花恋

おおともかれん。1999年10月9日生まれ。群馬県出身。2012年に女優デビュー。バラエティー番組や雑誌「Seventeen」専属モデルを歴代最長で務めるなど、活動は多岐にわたる。近年の主な出演作品は、映画『君の膵臓をたべたい』(17/月川翔)、ドラマ「チア☆ダン」「あなたの番です」「新米姉妹のふたりごはん」など。1月1日深夜放送のテレビ朝日「正しい恋の始めかた」では主演・尾崎真心を演じる。

公式Instagram:https://www.instagram.com/karen_otomo/

公式サイト:https://www.ken-on.co.jp/artists/otomo/

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